珪藻トピック(2013年9月15日掲載)


第2回 川の生物の命を支える珪藻

■川底に生育する珪藻
 川底の石を取り上げて触ってみてください。ヌルヌルしていませんか。それは石の表面に様々な種類の珪藻が付着し 群落を形成しているためです。川で生育する珪藻は、水に流されないようにするため川底の石などに付着して生活しています。そして、その付着の仕方も種類によって異なっています。石の表面には、珪藻の他に、ラン藻や緑藻などの他の藻類も付着しており、それらを付着藻類と呼びます。
 石の表面の珪藻群落は、先ず、流れてきた珪藻が石の表面に付着し、細胞分裂を繰り返して増殖することで形成されます。そして、群落はどんどん厚くなり、ある以上の厚さになると流れに逆らって付着していることができなくなり、石の表面から剥がれてしまいます。どのくらいの厚さにまで成長できるのかは、光や流れ、肥料となる栄養塩の濃度などによって決まります。例えば、珪藻には石に固着しているものと緩く付着しているものがあります。淵などの水の 流れが緩やかな場所では、石に緩く付着している珪藻が多くなり、群落も厚く成長します。一方,早瀬などの流れの早い場所では、石に緩く付着している珪藻は流れに耐えられなくなり剥がれてしまい、代わって固着した珪藻が多くな りますが、群落の厚さは薄くなります。



■珪藻を食べる魚
 珪藻は様々な川の生物の食べ物となって、その命を支えています。川虫と呼ばれるカゲロウやトビケラの 仲間の幼虫も珪藻を主な食べ物としています。また、川虫だけでなく魚も珪藻を食べています。日本の川や湖沼では、珪藻だけでなく川虫などいろいろな生物を食べる雑食性のコイ科の魚が多く見られます。しかし、中にはアユやボウズハゼ、アジメドジョウなど珪 藻などの藻類を主な食べ物とする藻食性の魚もみられます。
 アユやボウズハゼは、海と川を回遊する魚で、両側回遊魚と呼ばれます。川で生まれたアユやボウズハゼの仔魚は川の流れに乗って海へ流れ下り、しばらく海で生活します。そしてある程度大きくなった稚魚は、川をさかのぼり、海水から淡水へと生活環境を大きく変えます。アユは、寿命がわずか1年しかありませんが,川底の付着藻類を盛んに食べて、わずか半年の間に4~5倍の大きさにまで成長します。アユの食欲は旺盛で、1日に体重の半分以上の付着藻類を食べます。アユが食べた後には、笹の葉が二枚並んだような特徴的な “食み 跡(はみあと)”が石の表面にみられます。そのため、食べ跡を調べれば、アユが付着藻類をどこで食べていたのか知ることが出来ます。また、アユは、ある場所の付着藻類を独占して食べるため“なわばり”をつくることがあります。なわばりを作ったアユは、なわばりに入ってきたアユを威嚇したり攻撃したりして追い出そうとします。この習性を利用した漁法がアユの友釣りです。友釣りは、釣り糸の先に釣り針を付けたアユをつなげ、それを“おとり”にしてなわばりを作ったアユを引っかけて釣り上げます。
ボウズハゼ


アユの食み跡(はみあと)

アユが付着藻類を菜食している様子(ビデオファイル)
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 一方、アジメドジョウは、その一生を山間部の川で生活する淡水魚です。その姿かたちは、他のドジョウとほとんど変わりませんが、体側にみられる模様が特徴的です。アジメドジョウは、アユやボウズハゼとは違って、口に付着藻類を削り取るための歯がありませんが、厚い唇を使って石に吸い付きなが付着藻類を食べます。
 現在、アジメドジョウは場所によって絶滅が心配されています。絶滅が心配されている藻食漁には、他にアユの亜種であるリュウキュウアユがあります。リュウキュウアユは、奄美大島と沖縄島にのみ生息し、生息する河川も限られています。そのため、漁獲を禁止したり、生息環境を守ることでリュウキュウアユを保全する取り組みが行われています。
アジメドジョウ
■藻食魚が食べると種類組成が変わる
 アユなどの藻食魚は、生きるために珪藻などの付着藻類を必要としています。一方、珪藻などの付着藻類もアユに食べられることで大きな影響を受けます。食べられることで、付着藻類の量が減ってしまうことものその影響の1つです。しかし、それだけでなくその種類組成も大きく変わることが分かってきました。
 アユを放した人工河川とアユのいない人工河川を準備し、その川底に繁茂してくる付着藻類の組成について調べてみました。その結果、アユがいない人工河川では珪藻が繁茂 していたのに対し、アユを放した人工河川では珪藻に代わって、糸状ラン藻が増えていました。アユが付着藻類を食べていた場所は、川底の石に食み跡があるかどうか調べることで分かります。そこで、アユの食み跡がある石とない石の付着藻類の種類組成を調べた結果、アユが食べていた石では珪藻が減って、糸状ラン藻の仲間が繁茂していました。アユが食べるとなぜ種類組成が変わるのでしょうか。アユの消化管の中を調べてみると珪藻の他に糸状ラン藻も入っています。アユは珪藻だけでなく糸状ラン藻も食べていることが分かりました。しかし、アユの食み跡を電子顕微鏡で詳しく観察した結果、ほとんどの種類の付着藻類がはぎ取られて無くなっていましたが、糸状ラン藻の芽生えが残っていました。糸状ラン藻は髪の毛の様な糸状の形をしており、その一端で石に付着しています。アユは、石から伸びた糸状の部分を食べることは出来ますが、石に固着している部分や小さな芽生えを食べることができません。一方、珪藻の多くはアユに容易に食べられてしまいます。そのため、珪藻が減って、糸状ラン藻が増えたものと考えられます。

リュウキュウアユ


糸状ラン藻
■食べられ易い珪藻と食べられ難い珪藻
 しかし、珪藻の中にも食べられ易いものと食べられ難いものがあります。先のアユの食み跡を調べた調査では、Cocconeis属の珪藻が多く残っていました。Cocconeis属の珪藻は、石などにしっかりと固着するため、アユにとって食べ難い珪藻であると考えられます。また、アジメドジョウの消化管の中身を調べた結果、大きな珪藻はよく食べられていたのに対し 、小さな珪藻はあまり食べられていないことが分かりました。アジメドジョウにとっては、小さな珪藻は食べ難く、大きな珪藻は食べ易いわけです。一般に、食べられ難い珪藻は、小さく、基質に固着しているものが多いようです。
 珪藻を含め付着藻類には、生物に食べられ易いものと食べられ難いものがあります。このことは、川に棲んでいる生物が、川底に繁茂する全ての付着藻類を利用できるわけではない ことを示しています。
■川底はなぜ付着藻類でおおわれているのか?
 地球は植物におおわれた“緑の惑星”と呼ばれます。地球には、また、植物を食べる昆虫や動物がたくさん生息しています。Harison氏とSmith氏、そして、Slobodkin氏は、植食性の生物がこんなにたくさんいるにも関わらず、地球が緑でおおわれていることに疑問をもち、” 緑の世界の仮説(Green World hypothesis)” を提案しました。その仮説は、植食性の生物を食べる生物が植食性の生物の数を減らしているため、植物が食べ尽くされることなく、地球は緑におおわれているといものです。これまでに、“緑の世界の仮説”を支持する証拠が集められています。その一方で、植物は、動物に食べられないようにするために、様々な仕組みを進化させてきたことも分かりました。
 川の底にも珪藻をはじめいろいろな種類の付着藻類が繁茂しています。川には付着藻類を食べるたくさんの生物が生息しています。また、雨が降ったあとには川底の石を転がしてしまうような大水もでます。このような環境のなかでも、なぜ、付着藻類が無くなってしまうことがないのでしょうか。付着藻類の増える速さがとても早いこともその理由の1つと考えられます。しかし、はたしてそれだけでしょか。まだまだ私たちの知らないドラマが川の中で繰り広げられているのかもしれません。

2013年7月30日 阿部信一郎




阿部信一郎 (Shin-ichiro ABE)
 独立行政法人 水産総合研究センター
 日本海区水産研究所 資源生産部
 主任研究員

研究テーマ:
  ・河川付着藻類の生態
  ・付着藻類と藻食動物の相互作用
  ・砂浜海岸の底生珪藻の生態


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