珪藻トピック 特集: 珪藻化石から地球の過去を探る(連載全3話)(2014年2月3日掲載)

第3回:海底に存在する遥か昔の珪藻化石(第2話)

■海底に沈み溜まっていく生き物たち
 地球上の7割の表面積を占める,広大な母なる海。この中には様々な生き物が住んでいます。光が当たるような比較的浅いところには多くの魚や,その餌となる動物プランクトン,藻類などがたくさんいます。そして,水中に届く光を利用して光合成を行い,大量に数を増やしている植物プランクトンがふわふわと漂っています。さらに深く潜っていくと,海に届く光はどんどん少なくなり,やがて光が全く届かない暗黒の深海になります。しかし驚いたことに,こんな所にも深海魚や,エビやイソギンチャクの仲間など,多くの生物が生活しているのです。そして上からは,雪のようなふわふわとしたものが,たくさん降ってくることに気づくでしょう。このような深海の映像はテレビなどでよく紹介されるので,ご覧になったことのある方もたくさんいると思います。
 海に住むミクロの生き物(例えば,珪藻:図2-1,渦鞭毛藻:図2-2,円石藻:図2-3,など)は,動物プランクトンや魚などに食べられた後,糞や死体に姿を変えて海底に落ちていきます。これが雪に見えるものの正体で,「マリンスノー」と呼ばれます。マリンスノーは長い時間をかけて海底に少しずつ降り積もっていき,やがて海底に堆積物という形で厚い地層を作っていきます。このような営みは数億年前からずっと続いますが,古い時代に生きていた生物の死体ほど,堆積物のより深いところに存在しています。

図2-1. 海水中に生育している珪藻類。スケールバーは全て10μm。


図2-2. 海水中に生育している渦鞭毛藻類。スケールバーは全て50μm。

図2-3.海水中に生育している円石藻類。スケールバーは全て10μm。
■化石になっていく微生物たち
 海底に堆積した生物の死体は,そのほとんどが腐ったり,海底にいる生き物に食べられたりしますが,運が良いと殻や骨などの死体の丈夫な部分が化石として保存されます(図2-4)。それらの化石が,数千万年という時を経て陸上に姿を現わせば,私たちの目にする「崖」から化石を掘り出すことができます。また,海底からそれらの堆積物を直接掘り出し,研究者が観察するということも行われています。
図2-4.化石化作用(アンモナイトを例に。珪藻も同様の過程を経て化石となる)古生物の遺骸が化石として残るためには,堆積物中に急速に埋没し,波などによる物理的破壊,酸素などによる化学的分解,バクテリアや捕食動物による生物学的破壊をまぬがれる必要がある。骨や殻などの硬い組織は,軟らかい組織よりも化石として残りやすいが,硬い組織を持つ生物が必ずしも化石になるわけではない。化石となって残る確率は,個体数に依存し,化石として多く産出する生物は,当時繁栄していたと考えられている。
 これらの堆積物には,地球の環境の変化によって進化を遂げた,それぞれの時代にしか生きていなかった生物の化石が順番に層を作っています。例えば地球上が非常に暖かかった時代に積もった層には,暖かい時代に生きていた特有の生物化石が含まれています。そのため,海底に降り積もった堆積物は,過去の地球環境変動と,それに影響を受けた生物の歴史が詰まったタイムカプセルのようなものなのです。

■海底から堆積物をとりだす
 これまでは,約半世紀にわたって,このタイムカプセルを海底から掘削して取り出そうという試みがアメリカを中心として続けられてきましたが,2003年からは,日本と米国が主導とした統合国際深海掘削計画(IODP)として新たなプロジェクトが始まりました。このプロジェクトでは,「ちきゅう」と「ジョイデスレゾリューション」などの探査船を用いて世界の海底の掘削が行われています(図2-5)。現在,日本が運用する科学掘削船「ちきゅう」は,海底2,500mから7,000mの深さまでの堆積物を採集することが可能で,地震発生のメカニズムや,地球深部の生命圏の探索,さらに地球環境変動史の解明など,多くの謎を解き明かす最新の科学研究の場として世界中から期待されています。

図2-5.掘削の方法。左は実際に水深2000mの海底を掘削しているときの縮尺に合わせてある。
 海底の掘削では,海底の堆積物が柔らかい場合は,海底に筒状のパイプを突き刺してサンプルを採集しますが,堆積物が固い場合は,図2-6のようなドリルを回し,周りを削り取ることによってドリルの内側にある堆積物を採集します(図2-7)。このようにして採集された堆積物は直径10cm程度の円柱状のもので「コア」と呼ばれます。このコアはまさに海底にある地層をそのまま地上にとりだしたものになるのです。コアを30m程度掘り進むごとに海底から船上に持ちあげ,コアを回収し,またさらに掘り進むという方法がとられ,より深いところにある堆積物,つまりより古い地層を回収していくのです。

図2-6.堆積物の特徴によって使い分けられる様々な種類の掘削ドリル。


図2-7.掘削パイプから取り出され,半割された海底堆積物。
 このコアはこれまでに世界中の海底から採取されており,古いものでは恐竜が生きていた白亜紀に堆積したものもあります。コアの中にはさまざまな小さな生物の遺骸,微化石が含まれていることもあり,海域によっては珪藻の化石も大量に含まれています。この珪藻化石を用いて,珪藻やそれに関連する生物の進化や,過去の地球環境がどのようなものであったかなどが研究されています。
■珪藻化石で時代を決める
 海底には,その時代に海中に生きていた生物の遺骸が降り積もっていくので,より新しい時代に生きていた生物化石ほど堆積物の上位にあることになります。掘削によるサンプル採集は堆積物の上位から順に行われていくので,掘れば掘るほど古い時代に生きていた生物化石が見つかります。また,それぞれの時代で環境が暖かかったり,寒かったり少しずつ異なるため,含まれる生物化石の種類も変化します。これまでの研究で,どのような時代や環境にどの生物種が生きていたのかが明らかになっているので,顕微鏡を用いて堆積物中の化石を観察すれば,現在掘っている堆積物がどの時代のものかを明らかにできるのです(図2-8)。

図2-8.生層序の概念図.珪藻化石を例に。
 このような方法は「微化石生層序(びかせきせいそうじょ)」と呼ばれ,主に石油などを採るための掘削技術の発展とともに研究が進んできました。ある地域で,ある時代に堆積した石油が存在する地層がわかっていれば,その近くで再び掘削をする場合に微化石生層序を用いれば,「あとどれくらい掘れば目的の地層に達するぞ」という見当がたてられるようになります。微化石生層序は珪藻化石だけでなく,渦鞭毛藻,円石藻,放散虫などのプランクトン化石を用いても研究が進められており,様々な海域で,掘削の計画を立てる際に,また,コスト削減のためにも役に立っています。
 微化石は陸上で見られる堆積物,つまり崖などからも採集することができますが,海底のコアサンプルを用いると,より昔から現在まで連続的に,そして風化などの影響をあまり受けていない,より保存状態の良い化石を調べることができます。微化石は,恐竜などの大型の化石と違って,少量の堆積物から大量に採集することができます。一個体のみの情報だけでなく,その生物群集全体の変化を調べることができる微化石は,生物進化をより詳しく知るための重要なサンプルなのです。

2013年12月25日 須藤 斎

(第3回第3話へ続く)

須藤 斎(Itsuki SUTO)
国立大学法人 名古屋大学 環境学研究科
地質・地球生物学講座 生物圏進化学研究室
准教授

研究テーマ
  • 珪藻(特に休眠胞子)化石の分類
  • 珪藻がどのように変化(進化)してきたかを調べる研究
  • 数千万年前からの地球環境変動によって珪藻化石群集がどのように影響を受けてきたかを明らかにする研究
  • 珪藻化石群集の変化によってほかの生物がどのような影響を受けたのかを調べる研究


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