珪藻トピック 特集: 珪藻化石から地球の過去を探る(連載全3話)(2014年1月15日掲載)

第3回:環境の変化を記録する「微化石」(第1話)

■あまり知られていない「珪藻」という生き物
 地球には広大な緑が広がっています。熱帯雨林,サバンナ,家の近くにある森林,私たちの生活の場にある草花…。大地に降り注ぐ太陽の光を利用して,これらの植物は光合成を行っています。また,陸上植物は,大地から栄養を吸収する一方,その枯れ葉や枯れ枝は土を豊かにし,雨などの水分を大地に蓄えやすくしています。加えて陸上では,植物を食べる草食動物,草食動物を食べる肉食動物,動植物の糞や死体を分解し大地に栄養を戻す分解者たちが存在し,豊かな生態系が作られています。
 一方,地球には広大な海や池や川が広がっています。雨水と地下水から池や川が生まれますが,土壌からしみ出た水にはたくさんの栄養が含まれています。そして,この栄養は川を通じて最後は海へと運ばれます。海洋には魚類をはじめ,多くの哺乳類,ウニ,ヒトデなどの動物,コンブやワカメに代表される海藻たちなどが生息し,豊かな生態系を繰り広げています。そして,これらの生物の多くが私たちの生活と関わり合いを持つのです。
 水中にはもっと小さな生き物たちも存在しています。たとえばゾウリムシやミジンコ,ミドリムシ,クンショウモといった,プランクトン(浮遊生物)はその代表例でしょう。水中ではプランクトンを小さな魚が食べ,さらに大きな魚や哺乳類がそれらを次々と食べていきます(図1-1)。プランクトンは目には見えないほどの小さな生き物ですが,水圏の生態系を,ひいては私たちの食卓を支えているのです。
図1-1. 食物連鎖

図1-2. いろいろな珪藻化石
 珪藻は弁当箱のような上の器と下の器を重ねたような殻を持ち,その中に細胞が入っていて光合成などの生物活動を行っています(図1-3)。上下の殻が少し離れて殻内の容積を増やした後,細胞が2分裂し,それを繰り返すことで全体の数を増やしていきます(図1-4)。その増殖速度は非常に速く,海や湖や川には大量の珪藻が生育しています。
 リモートセンシングといって人工衛星からカメラによって地球を観測した研究の結果,海で行われる光合成は陸上で行われている光合成より若干少なく,50パーセント弱であることがわかっています。珪藻は非常に小さな生き物ですが,海洋で行われる全光合成の40%強を担っている重要な生産者です。この大量の光合成生産物は,海に生きるさまざまな動物のたいせつな餌となっています。また,今日,森を守って空気中に排出されたCO2を効率よく吸収させる試みが世界中で行われていますが,陸上植物と同じように,珪藻も水に溶け込んだCO2を吸収しています。このため,海に生きる珪藻が生きられない環境になると,私たちの食卓に上る食材が無くなるだけでなく,二酸化炭素の吸収も滞る事態になることも予想されるのです。

図1-3. 珪藻の殻の構造


図1-4. 珪藻の増え方

■小さなプランクトンの化石
 地球の環境変動によって変化を続けてきた微小生物の進化の歴史を調べることは,過去の地球の環境を調べる手がかりとなります。そこで,昔の環境の変化と生物との関係を調べるために古くから「化石」が用いられてきました。
 化石というと恐竜やアンモナイトなどを思い浮かべるかと思います。しかし,化石が埋まっているような堆積物,つまり地層を丹念に調べてみると珪藻など水中の微小生物の化石もあることがわかります。
 化石には恐竜の骨のように,手にとって,肉眼で見られるものもありますが,顕微鏡観察より初めて見つけられる生物の遺骸も化石として残ります(図1-5)。これらの微小な化石は,恐竜の骨と同じく丈夫な部分だけが残ったものです。珪藻や動物性プランクトンの放散虫では、ガラスでできた殻が堆積物中に化石として見つかります。また,同じく動物プランクトンの代表である有孔虫(よく観光地に売られている星砂がそれです)や貝形虫(ウミホタルがよく知られています)であれば,炭酸カルシウム(私たちの骨と同じ成分)でできた殻が化石として見つかります。これらの遺骸はゆっくりですが,大量に海や湖に堆積していき,やがて地層を形作っていくのです。そして,「運が良ければ」溶けてなくなることなく化石として今日私たちの目にとまるのです。

図1-5. 堆積物を顕微鏡で見たところ.様々な形のものが入っているのがわかるが,
そのほとんどが生物の化石である。

 海底や湖底に降り積もったこれらの化石は,古い時代に生きていたものほど堆積物の下の方にあり,新しい時代に生きていたものほど上の方に積もっています。そのため,堆積物を下から順に調べていくと,その中に含まれる生き物の進化の歴史をひも解くことができるのです。このような目に見えない小さな化石のことを「微化石(びかせき)」と呼んでいます(図1-6)。

図1-6. 様々な形・模様をした珪藻化石。白いバーは全て0.01 mm

2013年12月25日 須藤 斎

第3回第2話へ続く

須藤 斎(Itsuki SUTO)
国立大学法人 名古屋大学 環境学研究科
地質・地球生物学講座 生物圏進化学研究室
准教授

研究テーマ
  • 珪藻(特に休眠胞子)化石の分類
  • 珪藻がどのように変化(進化)してきたかを調べる研究
  • 数千万年前からの地球環境変動によって珪藻化石群集がどのように影響を受けてきたかを明らかにする研究
  • 珪藻化石群集の変化によってほかの生物がどのような影響を受けたのかを調べる研究


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