会長挨拶


 珪藻に関する最初の報告は,1703年,英国の匿名の紳士によるものだと言われています。それ以降,珪藻の研究は欧州を中心に行われてきました。これに比べると,我が国における珪藻研究は遙かに短いものですが,過去半世紀で急速な発展を遂げたのはご存じの通りです。
 科学はその歴史の中で,情報の量と頻度に比例するように発達してきました。珪藻研究もその例外ではありません。我が国では1979年に86人の生物系と地学系の研究者が集まり日本珪藻研究者の会(日本珪藻学会設立当初の名称)を結成し,翌年に第 1 回の大会を開催しました。会員は漸次増加し,1985年には学会誌 “Diatom” 1 巻を出版しましたが,これは国際珪藻学会がその学会誌 “Diatom Research” 1 巻を出版する1年前のことでした。
 21世紀に入り,世界の珪藻研究は新たな手法の導入により大きく変貌しています。従来的な殻の研究に加え,分子解析を用いた細胞レベルの研究が広く行われるようになりました。また,コンピュータの性能向上とソフトウェアの普及により,統計学的解析も多くの研究に取り入れられるようになりました。さらに,2国以上の研究者による国際共同研究や,従来関係のなかった異分野科学との共同研究も頻繁に行われるようになっています。かといって,タイプ標本やフロラの観察といった研究が終わったわけではありません。分類,地理分布,種分化,進化,そして,その他の生物学的・地学的研究の基礎をなすフロラの研究は,日本以外のアジアの地域では未だ少ないのが現状です。
 珪藻は基礎分野から応用分野まで,広範囲に研究されている生物です。今日,効率よい情報の伝達と交換が,従前にも増して求められています。日本珪藻学会ではこれに呼応し,“Diatom”掲載論文のJ-STAGE*での即時公開,インターネットによる論文の販売,学会ホームページに「珪藻トピック」の掲載,メールによる会員連絡体制など,ネット社会への対応を開始しました。また,珪藻の形態を漏らさず伝えるため “Diatom 27巻” より写真の高精細印刷を導入しました。そして,本29巻からは図表のダイナミックなレイアウトを可能にする,雑誌サイズの大型化を行いました。
 珪藻学会に集う人々は,誰もが珪藻というミクロの生物に魅せられた人たちです。さまざまな研究者によりよい情報提供ができるよう,また,研究者相互の親睦が深まるよう,さらに国際社会における日本および,とりわけアジア地域の珪藻研究が一層発展するよう,今後とも会員皆さまの一層のご理解とご協力をお願いいたします。


*J-STAGE https://www.jstage.jst.go.jp/browse/diatom 直近の2巻の閲覧には,毎年会員に通知されるパスワードの入力が必要です。なお,非会員に対してこれらの巻に掲載された論文は,クレジットカード払いで頒布されます。
真山 茂樹(Shigeki MAYAMA) 
日本珪藻学会会長
東京学芸大学教育学部教授(理学博士)
E-mail: president@diatomlogy.org


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